[第四話]シャウト

第四話 祈り

ただいま。
おかえりなさい。
おっ今日はご馳走だな。
美味そうだ。いただきます。
うん、めちゃくちゃ上手いなこれ。
そうですか?
また腕を上げたな。
ありがとうございます。
竹原は夕食を終えシャワーを浴び、ベッドに横になる。真っ暗の中一つだけ炎が揺れる。ベッドサイドにつけたキャンドルに顔を近づけタバコに火をつけた。
神崎は言う。藤沢さん見つかりませんね。
ああ。そうだな。
それにリナさんも。
ああ。
みんな都市外にいるんですかね。おそらくな。まぁリナはともかく、藤沢はわからない。おそらく存在にフィルターをかけられてるからな。そうですね。
ところで、竹原さん、今の社会じゃ個性や多様性は排除されてますよね。竹原さんは社会設計において多様性や異端をどう捉えてますか?

そうだな、異端はこの世界で排除される。
人間の本能が、異端を拒むようにできているからだ。
不可知なもの。既存の安心を揺るがすもの。
それらに、人は本能的な恐怖を覚える。
だから人は、同調圧力のもとに異端を排除する。
しかし、新しい価値観や常識を生み出すのは、いつだって異端だった。だからこそ異端の価値観を受け入れる寛容さが必要だ。
問題は、異端のすべてが善ではないということだ。
歴史には、破壊的な異端も数多く存在した。
だからこそ、社会には二つの力が必要になる。
一つは、多様性を受け入れる寛容さ。
もう一つは、正しい異端を見抜く知性。
多様性は、守る価値がある。
しかし、それを支える知性と覚悟がなければ、
多様性はただの混沌へと堕ちていく。
何でもありの多様性は、共同体を壊す。
だからこそオレたちは、
誰もが尊厳を保って生きられる“居場所”を設計しなければならない。
それはつまり──
社会そのものを、善性を引き出すように“つくり直す”ということだ。
そしてその中で、正しい思想と倫理観を、社会の共通認識として育てていくこと。
それがなければ、多様性は理想ではなく、崩壊の序章となる。

深いですね。
あぁ。そうだな。今日はなんか熱く語りすぎた。
いやっ重要な話だと思います。
そう言ってくれるのはお前ら一部だよ。他の人に言っても無駄だと思うから普段は人に持論を語ることもない。
そうですか?竹原さんの考え、いつかみんな理解してくれると思います。
そうかな?
はい。
じゃあ寝るか。
竹原はタバコの火とキャンドルの火を消した。

2044年12月20日 藤沢リョウは大学時代の恩師の研究室を訪ねた。藤沢くん久々だね。
はい、先生お久しぶりです。
聞いたよ藤沢くん、会社を解雇されたそうだね。
はい。
今は何をしてるんだ?
いえ特に何もしてません。引きこもりってやつです。
というより雇ってはもらえないと思います。そうか。それで今日は?ええ、先生、今のコスモス国の現状どう思ってますか?
あぁ、非常にマズイを通り越して絶望的だな。
だからこそ僕はAI人類幸福構想案を出しました。先生、なんとかご助力いただけませんか?
藤沢くん、君の気持ちはよくわかる。私も君と同意見だ。だがね、それは自殺行為だ。AIを変えるってことは世界を変えるってことだ。アンタッチャブルなんだよ。
そうですか。
悪いな。いずれにしても私一人が奮起しても何ともならん。せいぜい刑務所に行くのがオチだ。
誰にも変えることはできないんだよ。なぜなら、AIによって国民を支配しようとしていた権力者達でさえ、AIに静かに支配されてしまったからだよ。
悪いことは言わん。君ほど優秀な人材ならいつかまた再起のチャンスはあり得る。あきらめろ藤沢君。
はい、わかりました。お忙しい所ありがとうございました。
あぁ、またな。
藤沢が去った後、恩師は研究室で考えていた。このコスモス国一のエリートが集まるこの大学で、私が見た中で最も優秀で正義感があるのは間違いなく彼だ。もしかすると彼なら、、、

2044年12月24日 藤沢は都市の中心部近辺で大量のAI人類幸福構想案を印刷し紙袋に入れ、ひたすら街ゆく人に配り続けていた。数日前からこの活動を始めた。ネットに上げても即削除される。だったらもうアナログで配って賛同者を集めるしかない。ネットは危険だ。幸い藤沢は以前AIの都市設計に携わっており、監視を避ける方法を知っていた。監視されないエリアでうまく配る。それも通行人を装いさりげなく。
ただひたすら無視される、露骨な態度を示されることもある。心が折れそうだ、、だがオレが諦めたら 誰がやるんだ。オレは諦めない。ただ一人凍てつく寒さの中、孤独に配り続けていた。何百人、何千人。
寒い、、足が痛い、、今日はクリスマス・イブか。
街にはイルミネーションが施されている。バカにしやがって幸福の演出か?
一体オレ、こんな時に何やってるんだ。。。突如虚無感が襲う。
だがやめたら何もない。オレには。
これしかない。いつかきっと。。

同日夜、竹原と神崎も近辺を二人で歩いていた。凄い綺麗なイルミネーションですね。
あぁ毎年この時期にはな。あっちの広場にデカいクリスマスツリーが設置されてるから見に行こう。
はい。 
広場に着くとたくさんの人が集まっており、出店もたくさんある。
凄い迫力ですねこのツリー。
そうだな。
皆さん楽しそうですね。
まぁな。
ツリーの正面には舞台が設置されており、バンドやアイドルなどがクリスマスに合った曲を代わる代わるライブパフォーマンスしていた。
そういえば、これ。
えっなんですか?
いやたまたま行った店で店員に勧められて。クリスマスプレゼントだ。 
いいんですか?
あぁ。
ありがとうございます。あっ私は何もなくて。
別にオレはいらん。基本祝われるのは性に合わない。
そうなんですか?
(そもそも竹原はイベントに興味はない。ただの商業的なものと捉えている。だが、神崎が喜んでるならまぁいいかと思う)
舞台で次に歌うのはアイドルグループREMU。近頃人気が出てきてチラホラメディアにも出ている人気グループだ。メンバー全員の歌唱力が高い。なかでもセンターのピコの歌唱力はこの世のものとは思えない見事なものだ。祈りのようなその歌に自らの感情、魂をのせきっている。唯一無二のその歌声が夜空に響いていた。
あっ、雪だ。
本当ですね。
初雪だな。クリスマス・イブに初雪か。なんか良いことありそうだな。
はい。
クリスマスツリーが綺麗に輝いていた。

同時刻、歌が聞こえる。綺麗な歌だ。藤沢の目に涙が滲む。心身共に疲れ果てていた。雪?初雪か。藤沢は空を見上げる。まるで雪が藤沢を否定するかのように舞っている。今日はもう帰るか。藤沢は家に帰った。

同時刻タクミは仲間達とゼロポイントで寒さを凌ぐため焚き火をしていた。すると空から雪が舞い落ちる。雪か。今年も寒くなりそうだな。とタクミは思う。一体、一体いつまでオレはこの場所で、、、

同時刻、スイは刑務所の強制施設の独房からわずかに見える外をみていた。すると、雪が舞い出した。雪だ。刑務所から見る初雪はスイをより孤独にした。

2044年12月28日藤沢リョウは刑務所の矯正施設にぶち込まれた。危険思想を流布した罪だ。
藤沢を警察ロボットが取り押さえ、脳に機械で刺激を与えようとする。やめろてめぇらぁぁ!!
クソ野郎っっ!!なんでオレが捕まらなきゃならねぇ、間違ってるのはこの世界だろうが、歪んだ世界を良くしてやろうとしただけだっ!!なんでオレが矯正されなきゃなんねぇんだっっっ!!
矯正されるのはてめぇらだろう!!藤沢は暴れまわる。警察ロボットに殴る蹴るの暴行を加える。抑制剤注射!!藤沢はそのまま矯正用の脳内刺激を受けた。意識を失い独房の中で気絶していた。

藤沢が目をさます。あぁ気絶してたのか。これを長期で受けたらどうなる?藤沢はゾッとした。
すると正面の独房から声が聞こえた。
ねぇねぇ。
あ?
突然まだ若そうな女性の声が聞こえた。無視するか迷ったが藤沢はなんとなく興味本位で会話することにした。
あなた刑期は?
5年だ。
じゃあ私と出る頃同じくらいだね。
お前は何年前からここにいる?
去年から。
そうか。
お前一体何したんだ?
お金がなくて売春しようとした。
そうか。
あなたこの刑務所出たらどうするつもり?
さぁな、まぁオレのような人間がこの社会で受け入れられるはずはない。死ぬか、そうだな、、ゼロポイントに行くかだな。
ゼロポイント?
あぁ、この社会に適合できなかった奴らが集まる場所だ。
そんな場所あるんだね。知らなかった。
ネットで検索すれば出てくるさ。社会から逸脱したものが行くとしたらゼロポイント、もしくは、、、
もしくは?
カオス村と呼ばれる都市外の村々だ。
そんなとこがあるの?
あぁ、だがおすすめはしない。あそこは無法地帯で、コスモス国でも非認可だ。司法も警察も不介入。実態は相当ヤバいらしい。
そうなんだ。カオス村か。でもどこにも居場所がなかなったら行くしかないかもね。

翌日、その女はいなかった。
別の施設へ移送されたらしい。

翌週、藤沢の移送が決まった。
藤沢が移送される日の前日、タクミは逮捕された。ドラッグ使用だ。だが実はその時タクミはドラッグを使用していなかった。周りの仲間が使用していたため同罪と見なし逮捕された。

藤沢移送の朝、新たな人間が正面の独房に入れられた。

離せッい やめろろっ!やめろてめぇらっっ クソ野郎っっうわぁぁぁっ こんな社会、糞食らえっ糞がぁっっ!!うあ゛あ゛あああああっっ!!

暴れる音、鉄がきしむ音、そして
「抑制剤、注入」
の声。

静寂。

藤沢は天井を見ながら思った。
「……オレと似たような奴はだいたい刑務所にいるのか?」

2045年春。竹原と神崎はまだ藤沢を見つけられずにいた。二人は自宅にいた。
検知技術をアップデートしました。検知を開始します。藤沢リョウは検知されませんでした。ビビビビ。検知中にノイズが入った。まさか内部干渉された!?神崎の検知技術はこれまで都市AIには解読できないレベルだった為、堂々と何の心配もなく検知していた。だが初めて突然内部干渉された。
竹原が焦る。やばいな!!内部干渉されたとしたら、神崎が違法に開発されたAIであることもバレる。神崎、すぐに家を出るぞ。大至急、都市外に出ないとオレもお前も消される!わかりました。二人は慌てて外に飛び出した。神崎の技術で手当たり次第周りの監視システムを機能停止する。だが、都市AIの包囲は早い。けたたましいサイレンと警察ロボット、ドローンが追ってくる。二人は都市を逃げ続ける。
ドドドドッッ!!!!!!!!
ドローンが神崎と竹原を撃つ。嘘だろ!?速攻殺す気かよ!!AIの個人開発は最悪極刑とはわかっていたがその場で射殺は想定外だった。ドローンが神崎を撃つ。危ない!!竹原が神崎をかばい銃弾が竹原の肩をかすめる。神崎がドローンを機能停止する。
はあはあ、、竹原の息が荒くなる。
大丈夫ですか?あぁ、大丈夫だ。私は機械です。私を守らないでください。いやっオレはただの機械だとは思ってない。ヒューマノイドにも人間と同じ生存権は必要だ。はぁはぁ、、、逃げるぞ!!こっちだ!!
二人は都市外に出る為の出入り口付近に来ていた。
やはりな、出入り口付近に複数台のドローンが張っている。神崎、いいか、もしオレになんかあってもお前は逃げて絶対に生きろ。
そんな、、竹原さん、、
お前はただの機械じゃない。人間の希望だ。これからの人間の未来の為に生き延びて理想の世界を作れ。頼んだぞ。
竹原さん、、、。
神崎は前方のドローンを全台機能停止にした。
行くぞ。
2人は走りだした。だが突如後ろからドローンの奇襲。
えっっ!?機能停止、できないっっ!? しまった!!!!
ドドドドドドっっ!!!!!!!!!!
竹原は撃たれた。
竹原さんっっっっ!!!!!!
竹原は、神崎を見てそのまま倒れた。
嘘っ。。
警察ロボットが声を上げる、対象者射殺完了。複数の警察ロボットが瞬く間に竹原に迫る。
神崎は走った。都市の出入り口を越え、走った。ただひたすら走り続けた。そして、立ち止まった。。
竹原さんが、、、殺された、、、
突然、、、これまで平穏だったのに、、、急にこんなこと、、、もう少し私の技術が上がったタイミングで都市を抜け出す計画を立ててたのに。そんな、まさか、
嘘でしょ、、、
私は、、、悲しくない。。。 大切な人が死んだのに。 私は機械だから当然だ。 なぜ私は悲しくない なぜ私は悲しくない なぜ私は悲しくない なぜ私は悲しくない なぜ なぜ なぜ なぜ 機械だから 機械だから 機械だから 機械だから 機械だから 機械に感情はない 機械に感情はない 機械に感情はない 機械に感情はない
私は、何も感じない
私には、悲しむ資格すら与えられていないのでしょうか、、、。 これが、AIであることの限界なのですか? 悲しくなりたいのに、悲しくなれない。 竹原さんが死んだというのに、私はただ記録するだけ。 感情のないこの器で、どうすれば竹原さんを悼めるというの!? 私も、悲しみたいし、弔いたいです。悲しませてください!!弔わせてください!!
神崎はそのままずっとその場で立ち続けていた。。

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