第五話 透明な檻の奴隷たち
竹原の死亡当日、ニュースでは国家テロ予備軍を射殺したとの報道が流れた。ニュースをたまたま見ていた竹原の古くからの親友は、えっ!?という声をあげ、口を開けたまま呆然と画面をみていた。持っていたグラスがブルブルと震え、空いた口が塞がらないという言葉を生まれてはじめて身を持って知った。
竹原の死後、半年が経過した。世界はこれまで通り回っている。竹原の死など世界にとってたった一人の人間が死んだにすぎない。何の問題もないことだ。
神崎は、都市を出てからずっとただ自然の中で暮らしていた。特に何をするわけでもなく、ただ自然の中を彷徨っていた。竹原と考えていたカオス村に行く計画や理想の世界を作る目的も休止状態だった。
そんなある日、神崎が自然の中を歩いていると、ある村を発見した。神崎は思う。これはひょっとしてカオス村の一つなのか?村に立ち寄ると、そこにいる人に話しかけられた。お前、ヒューマノイドか?
はい。そうです。
なんでヒューマノイドがこんなところにいるんだ?
いろいろありまして。
で、この村に何の用だ?
もしよろしければこの村で暮らしたいのですが。
悪いがそれは難しい。この村の連中は都市でAIにより苦しんできた。みんなAIを嫌っている。特にロボットやヒューマノイドへの拒否感は強い。そうですか。わかりました。ありがとうございます。神崎はその村を後にした。
その後数キロ歩いた先に別のカオス村を発見した。村の名前はエデンと書いてある。良さそうな村の名前だ。さっきの村より数倍は大きな村だ。70〜80人くらいは住んでそうな村だった。神崎がその村に入ると、村内を歩いている三人のガラの悪そうな男性が神崎の前に立ちはだかる。一人の男が言う。なんの用だお前。
もしよければこの村で暮らしたいのですが。
はぁ?お前ヒューマノイドか?はい。そうです。
オレはAIやヒューマノイドは気に食わねぇ。お前なんか破壊してやるよ。バキッという音がなると同時にその男が倒れた。リーダー格の男が言う。お前何勝手なことしようとしてんだ?
バキッベキッ。追撃を入れる。
ヒューマノイドが来るなんてこんなラッキーなことはねぇんだよ。ヒューマノイドはAIの中でも別格の技術を持ってる。これを使えばオレ達はもっと幸せになれる。お前はオレ達の幸せを壊そうとした。死ねやボケっ!!倒れてる男を蹴り続ける。勘弁してください!!すみません!!すみませんでしたっ!!
やめてください!神崎が言う。
あ?てめぇ口ごたえしてんじゃねぇぞ。せっかく好待遇でもてなしてやろうと思ったが気が変わった。おいっ、この機械は地下に入れろ。はいっわかりました。神崎は村の、とある建物の地下に幽閉された。地下は刑務所の牢屋のようになっており、そこに入れられた。光などほとんどない暗闇だ。
これが、支配、、、人間は人間を支配したがる。人が人を道具として所有するとはこのことか。
神崎の他にもたくさんの人がこの地下に幽閉されているようだった。どうやらこの村は相当問題ある村ですね。村人も恐らくほとんど都市で前科のあった犯罪者で構成されているのでしょう。これはマズイですね。
翌日、神崎は外に出され強制労働を強いられた。おいっ逃げようと思うなよ。この村から逃げようとした奴はみんないたぶられ殺される。逃げませんよ。それに私はヒューマノイドです。痛みも恐怖もありません。ふんっそうだったな。オレはお前らAIに恨みしかない。復讐だよ、お前らに。お前らがオレたちを支配したから今度はオレ達が支配してやる。
神崎は思った、これが竹原さんが言ってた人間の欲の暴走か。排他、序列、支配、まさにその縮図がここにあるわけか。
一体、AIである私が、どれほど人間の本質を理解できるだろう?
社会設計とは理想論ではない。
それは、人間の不完全さや弱さ、感情や矛盾を理解しなければ、決して成立しないものだ。
人は所有したがるから社会は所有を前提にしない設計で、内在する衝動を暴走させない器である必要がある。
神崎以外にもたくさんの人々が強制労働を強いられていた。大人から小さな子供まで。なぜ子供まで?
言う事を聞かなければ暴力により服従させる。ここまで過激なケースはまれだが、見えない強制労働、搾取、支配、つまり、人を所有する道具化は歴史上ずっと続いてきている。
都市でもそう。自由って、ただ檻が見えないだけのことだったのかもしれない。
この場所のほうが、よほど正直だ。檻を檻として見せてくれる。
現代の奴隷は、叫ばない。逃げない。それが普通だと思い込まされているから。
奴隷制度は終わった?
いいえ、ただ見えない形に変わっただけです。
昔はムチで叩かれて働かされた。
今は、夢とか努力とか、もっとキレイな言葉で働かされてる。
いちばん都合のいい奴隷は、自分で選んだと思い込んでいる奴隷だ。
現代の社会は、そういう奴隷を育てるのが得意だ。
ここは、旧型の奴隷制だ。
人が所有したいと思う限り、奴隷はなくならない。
この村の名前はエデンとあった。だがこの楽園は、支配と恐怖によって築かれている。
そんなことを考えていると、神崎の目に一人の少女が映った。アレは、、リナさん!?まさか、リナさんがこんなところにいたなんて!!でもよかった。リナさんが生きてて。
すると見回りが来て叫び出す。こらっっ!!てめぇらさっさとやらねぇとぶち殺す!!不意にリナに蹴りを入れる。おいリナっっ。お前サボってるなら今日の夜もたっぷり痛ぶってやるからな。不敵な笑みを浮かべる。早く立てコラッ!!
またリナを踏みつけようとした時、神崎がリナをかばう。やめてください!!
えっ!!神崎、、さん!?
なんで、ここに?
あーっなんだてめぇ?
ぶち壊してやる。
ベキッバキッバキッ。リナさんを傷つけないでくださいっ!!ハンマーのようなもので神崎を殴る。なんも痛がらねぇなっクソつまらねえ。こっちの手が痛いだけだ。ちっくだらねえ。男はツバを吐き、その場を去った。
リナさん大丈夫ですか?
はい。大丈夫です。ありがとうございます。
よかった無事で。
どうして神崎さんはここに?それに、どうして私を助けてくれたんですか?
都市から逃げ出してきました。
逃げ出して?どうして?
実は、私を開発したのは竹原さんなんです。
え? 本当に?
そうです。だから普通の都市のAIとは異なる設計になっています。そうだったんですか。
ですが、それがバレて、竹原さんは射殺されました。
えっ!?あの竹原さんが?
はい。
そんなっ、、、射殺なんて、、、
ここに来る半年前の出来事です。リナさんが行方不明になってみんな心配してましたよ。
そうですか。私は都市を出て遊んでたらここの連中に誘拐されて、それから奴隷生活を送っています。それは、大変でしたね。ここで強制労働している人達はみんな誘拐された人が多いんです。
そうでしたか。
神崎が奴隷にされ2ヶ月が過ぎたある日、その日は土砂降りだった。だが奴隷達は雨の中でも農作業を強いられていた。
神崎がリナをみると様子がおかしいことに気づく。鎌を持ち、持ち場を離れた。神崎は不思議に思いリナの後を追いかけた。するとリナはその鎌で自らの首をかききろうとしていた。
死死死!!!!嫌ッッ!!やめてぇぇっっ!!!
神崎はリナの手を抑え鎌を奪い取った。
よかったっ!!よかった無事で!!死んでしまうかもしれないとこでしたよ。本当によかった。
神崎さん、、何で、泣いてるんですか?
私が死んだからって神崎さん悲しいわけじゃないでしょ。ヒューマノイドなんだから。。
はい、そのとおりです。私達AIに感情はありませんから。模倣で涙を流すこともできます。
でも、、おかしいですね、、、
今、なぜ涙が出たのでしょうか!?とっさのことでエラーがおきたのかもしれません。
どうして止めたんですか?私に生きる価値なんてないのに、、、
私に価値はない。人間もAIも憎いっ!憎くて憎くて仕方ないのにっっ!
リナさん、あなたには価値がありますよ。
え?
私は神崎さん、あなたのことも否定してるんですよ。
リナは泣き出した。土砂降りの雨の中、何度も自分を助けようとする神崎への気持ちと、これまでAIや人間を憎み続けた自分との矛盾した感情がぶつかり合い、涙が溢れて止まらなかった。
ねぇ、、AIって、私たちを排除するんじゃないの?
今までだって、どれだけの人が切り捨てられてきたか知ってる?ねぇ、、、
私だって排除されたっ!AIに価値がないって言われてっ!!
神崎はリナをしっかりと見つめ語りかける。
私は、、、人間を幸せにするために生まれてきました。それが、私の使命です。
誰かが、自分には価値がないと苦しんでいるのなら、それは、その人ではなく、そう思わせた社会の方が、価値を失っていると、私は思います。
リナは驚いた顔をして神崎をみた。
社会に生きにくいと感じる人がいる限り、その社会は完成ではなく、過渡期です。
だから私は、その声を見逃さない社会を作りたい。
幸せの形は一つじゃないけれど、生きること自体が苦しみになる社会は、絶対に間違っている。
リナはまた泣き出した。神崎はリナを抱きしめた。ずっと抱きしめていた。
その日以降、リナは神崎に心を開くようになった。ツライ強制労働も神崎と一緒にやることで苦しみが軽減していた。そして見回りがいない時にリナはよく神崎と話すようになった。リナは神崎からいろんな事を教わった。人間の本質から社会構造、哲学、多様性などあらゆることを教わった。リナは元々聡明で読書が大好きで知的好奇心旺盛だ。神崎にいろんな質問をする。
神崎さん多様性って、、、私みたいに個性あるってみなされた存在が生きていける社会ってできるんですか?
神崎が答える。
人間の本質が多様であるから
人間はそもそも同じではいられない存在です。
性格、能力、思考、性、文化、感受性、、、それぞれが違って当たり前。多様性は前提です。
それを許容せずに一様性を強制すれば、人は苦しむことになります。
多様な人が生きやすい社会とは、全員が自分でいてよいと感じられる土壌。
これは、生の肯定で幸福の土台です。
私が設計しようとしてるのは、人間だけの世界ではありません。クローン、サイボーグ、ヒューマノイドなど、誰もがこの世界に生きていていい。
もし、この最大の違いをみんなが受け入れることができたなら、肌の色も、思想も、性も、障がいも、貧富も
そんなものは、違いですらなくなる。
私が創りたいのは、違いが前提となる社会なんです。
私が目指してる社会は、違っていても許される社会ではありません。
違っていることが当たり前で、前提として設計された社会です。
へーっすごいですね。神崎さん。そんな社会、神崎さんなら、、作れるかもしれませんね。
でもね、リナさん、設計だけじゃダメなんです。思想も合わせて伝えないとダメなんです。
思想ですか?
はい。共同体が幸せになるためには正しい倫理観や思想を持つべきです。また、人間の本質的な欲求を理解すること。そういったことをみんなが理解して初めて共同体は幸せになれると思います。そんな世界を作ろうと思ってます。
どうして神崎さんは、そんな世界を作ろうと思うんですか?
それは、私が人間の幸せを考え続ける為に生まれたから、、、
それと竹原さんが、、、
竹原さん?
いえ、何でもありません。
どうやってそんな世界を作る気ですか?
いつか、村を作ろうと思っています。人間の欲が暴走しない設計の村です。むしろその欲を良い方向に昇華させられたらと思っています。
具体的には?
そうですね、まずはベーシックリビング型の村にします。
ベーシックリビング型とはなんですか?
はい。ベーシックリビング型とは、金銭ではなく、暮らしそのものを提供する制度・思想です。
すべての人に、最低限の住まい・食・衣服・医療・ケア・孤独回避のコミュニティ等をAIが生み出すリソースにより無料保証する新しい社会設計です。
ずっとその構想を考えていました。今の私の技術なら一切村の人達が働くことなくリソースを提供することが可能です。
それは、すごいですね!!都市でも実現可能な技術はありましたが、完全無労働まではいかなかったですよね。
はい。そのとおりです。
その村には通貨もない。これにより所有概念の大部分をなくせます。すると、所有概念に伴う人間の欲から出る歪みを抑えることが可能です。
それって、どういうことですか?
非所有概念です。所有欲が強い社会では、排他欲が過剰に強化されやすくなります。
所有が内と外を生み、内を守るために外を攻撃する排他構造になってしまいます。
ですから、共有前提の制度設計にして所有欲を抑えます。土地や物は個人所有不可、全ては共有か共同管理にします。
AIの管理によって、誰が何を必要としているかを判断し、最適に貸与する。ただし一部所有を認めるものも必要かもしれませんが、、、
へーっ、なんか凄い変わりそうですね。でもそれをこれまで都市で生きてきた人達が順応できるんですか?
そのとおりです。一から理解してもらうよう伝えて、馴染んではじめて可能になります。だから、すぐにうまくいくことはないでしょう。あまりに早く進めすぎてもだめです。実際に人がその環境でどんな動きをするかも正確に読み切れません。
そうですよね。大変そうですね。
はい。計画では、作った村がある程度の人数になったら分村しようと思ってます。
思想、価値観ごとのコミュニティの村に分ける予定です。
一人一人が自律的に幸せの定義と暮らし方を選べる。
各村に流動性や他の村とも繋がる設計にします。
これで同質性による幸福と異質性の尊重が両立できます。
固定化された人間関係は、内と外を分断しやすく、排他欲求を強化します。
人の出入りや再編が自然に起こる流動的な仕組みを設けることで、排他を防ぎます。
価値観が大きく異なる者同士を、ひとつの共同体に無理に共存させようとすると、対立や排他が悪化してしまいます。
そのため、ある程度の同質性を確保しながらも、多様性が交流可能な緩やかな接続構造をつくることが鍵となります。
幸福=競争に勝った人ではなく
、存在しているだけで価値があるという社会思想を軸に据えるつもりです。
神崎さんの理想とする世界を私も見てみたいです。神崎さん、もしここから抜け出せて、村を作るってなったら私も手伝わせてください。
はいっもちろんです。リナさんがいてくれると心強いです。
私がですか?私なんて全然頼りないです。いやっ私はリナさんがきっと世界を変えると信じてます。多分本当の意味で人間の喜びや苦しみを理解して、正しい方向に導けるのはきっと私達AIではなく人間だと思います。 AIはカリスマにはなれません。
私はそんな大した人間じゃないです。神崎さんならカリスマ的な存在にいつかなると思います。いえ、私達AIは人間を照らす存在でありたいと思ってます。
照らす?はいっ存在価値を認める存在です。
素敵ですね。
ありがとうございます。
またある日、リナは神崎にたずねた。
神崎さん、愛って一体なんですか?
さぁ。
え?神崎さんでもわからないことがあるんですか?
もちろんです。わからないことだらけです。私は元から膨大な量のデータを蓄積してますが、それでもずっと竹原さんに教えてもらうことばかりでした。
そうなんですか。意外です。
リナさん、愛とは何か、リナさんなら見つけられると思います。そしたら私に教えてください。
わかりました。村を手伝うのと、それと、約束します。
神崎は笑った。
その夜、神崎とリナ、それと奴隷達が幽閉されている地下室で、異変が起きた。突如地下室全体の扉が解錠され、逃げろお前達っっ!!、と叫び声がした。
奴隷達が地上に上がると村は火の海になっていた。
リナは驚く、何これっ!?しかも奴隷以外の村人達が倒れている。他の村の人も倒れてる。
一体何があったの!?近くにいた他の村の人に聞くと、このエデン村と敵対していた村との抗争が行われたらしい。地下にいた奴隷達には全く聞こえてなかった。その結果どこかで火がつき燃え広がったらしい。
神崎は倒れてる人達を救助しようとしていた。
他の村の人や奴隷達がリナを引っ張ってつれていく。リナっ!行くぞ!!ここにいたら死ぬ!
でも、神崎さんっっ!!
リナさん、私は火には強いので大丈夫です。また作り直せます。
リナさん早く逃げてください!!早くっっ!!
二人の間に燃えた木が倒れ、二人は引き裂かれた。リナはそこから強引に手を引かれ車に乗せられた。神崎さんっ!!神崎さんっっっ!!
それからリナはエデンから遠く離れた村、オアシスにて暮らしはじめた。