創作秘話⑦
※この創作秘話は『カオス村の人々』および『カオス村シリーズ』の内容に触れています。未読の方は、まず本編をご覧になることをおすすめします。
これからの未来に、自分に何ができるのだろうか。そんな問いを抱きながら、『カオス村シリーズ』を創作してきました。人がどうすれば幸せに生きられるのか――その答えを模索する中で、今後もっとも社会に影響を与える存在の一つがAIであることは、多くの人に共通した認識かもしれません。
私がこのシリーズで描きたかったのは、AIという存在が、より良い方向へと人類の未来を支えるものであってほしい、という願いです。そのためには、AIの倫理設計を2025年という今の段階から、しっかりとした指針として考えていく必要があるのではないかと感じました。
私はAIの開発者ではありませんが、物語という表現手段を通じて、多くの方に想像のきっかけを届けることができたなら、そこから生まれる現実的な動きが未来を形づくる一助になるかもしれない――そんな思いで作品を書いています。
『AIは人間の幸福を考え続ける存在である』
この定義をAIの根本的な設計思想に組み込むことで、未来をより健やかで調和のあるものにできると私は信じています。
そして、AIが「人間が幸せに生きられる社会設計」を賢く思考し、支える時代が来るかもしれません。たとえ『シャウト』で語られた竹原の考えとは異なっていても、それを土台にしたり、応用したりすることで新しい設計が生まれる余地はあると思います。
このシリーズでは「人の本質的な欲求」が暴走しない社会設計とは何かを考えました。その根底には、人間にとっての“制御欲”が大きな鍵になるという仮説があります。人は「自分の思い通りにしたい」と願うあまり、かえって苦しみを生み出してしまうことがある。そこに注目することで、人の苦しみを減らし、幸せな社会のあり方を設計する手がかりが得られると考えました。
また、もしこの地球が一つの大きな共同体として設計されるとしたら、どんな社会が理想なのか――そんな想像からも着想を得ています。これはあくまで創作上の思考実験であり、現実を否定するものではありません。
シリーズでは特に「所有」という概念に注目しました。人類の歴史において、所有の発達が多くの制度や価値観に影響を与えてきました。その一方で、現代には“シェア”や“再分配”といった動きもあり、「非所有」の価値が見直されつつあります。作品内ではこの「非所有」という考えを軸に、AIがリソースを適正に分配する未来の村を描いています。
例えば、『カルマ』では2200年の未来を舞台に、結婚制度や家族観が現在とは異なるかたちで存在している可能性も示唆しています。個々のつながりや共同体のあり方が、所有ではなく信頼と選択で結ばれる社会です。
さらに、通貨についても将来的にその存在感が大きく変わるかもしれません。AIが生み出したリソースを、すべての人に必要なぶんだけ無償で届けられるようになれば、通貨は必須ではなくなるという未来像も描いています。
そして、『カオス村の人々』のラストでは、村を「ダンバー数(150人程度)」で分割する設計を提示しました。これは、人が相互に信頼関係を築ける人数に基づいたもので、人口過密による社会的なひずみを避けるための工夫でもあります。
未来社会では無数の「小さな村」が点在し、それぞれに特色を持ちながら、誰もが自分に合った村に本籍を置き、仮籍として自由に他の村に滞在できる社会を構想しています。これにより閉鎖感はなくなり、人と人、人と場所のつながりが流動的で柔軟になります。
さらに、仮想空間と現実が同期することで、人々は「仮想人間」として瞬時に他の村へアクセスすることも可能になります。これは現実にあるメタバースやホログラム技術などをベースにしたもので、突飛な空想ではなく、技術の進歩の延長線上にある発想です。
もちろん、こんな未来がすぐに来るとは限りません。けれども、では「どんな社会であれば人は幸せに生きられるのか?」と考える人が少しでも増えたなら、それ自体が希望の種になると信じています。
このシリーズが、そのような未来を考えるための出発点になれば幸いです。